第68回全国能率大会 優秀論文発表会 「経済産業大臣賞」受賞者インタビュー

【インタビュー】第68回全国能率大会経済産業大臣賞を受賞して

全日本能率連盟では「経営の科学化」推進に向け、“産業振興”、“経営革新”、“人材開発”などに関する論文を広く募集し、優れた論文にはマネジメント界で唯一の「経済産業大臣賞」を授与しています。
第68回(平成28年度)全国能率大会論文で経済産業大臣賞を授与されたのは、上岡恵子氏(日本ユニシス株式会社)と青柳六郎太氏(ファイルース・コンサルティング)のお二人が書かれた「ICT投資におけるSCMキャッシュフロー方程式の有効性についてのケース研究ー化粧品製造企業A社の事例ー」。 今回受賞された「ビジネスにおける論文発表」の意義を、業務の内容などを交えながらお伺いしました。

二人で書くことにより、より深く、新しい気づきが得られる

――最優秀賞である経済産業大臣賞の受賞、おめでとうございます。

上岡氏(以下、上岡):ありがとうございます。今回、共著ということになっていますが、もともとは青柳先生が長年取り組まれていたキャッシュフロー方程式、それを中心とした原価計算、会計フローの問題や課題についてのご活動を、まとめることができたらいいな、と思って書き始めたものです。

青柳氏(以下、青柳):ありがとうございます。今回、全能連さんで論文を応募できるというきっかけをいただいて、今までの自分の経験・知見をまとめてみようと思いました。コンサルタントの業務内容の知見というのは、実は集約や発表をする機会がなく、経験値が個人に依存してしまっているのが現状だと思います。それでは業界に広がりがないし、お客様も「何だかよくわからないけれど、とりあえず頼んでみる」ということになりがちです。私の今までの経験を資料として、皆さんに理解してもらって、その上で使っていただければ、ITベンダーさんもユーザーさんもハッピーになるのではないか、と思って応募してみようと思いました。

上岡:それがこんな素晴らしい賞をいただいて、本当に嬉しいです。

――長年のお仕事ということで膨大なデータがあるかと思いますが、どのようにまとめていったのですか?

上岡:このテーマ自体は青柳先生が長年取り組まれていたものですが、論文はここ3年間くらいをベースに書こうと決めていました。その中では、思ったようなデータが取れず、データ不足の部分ももちろんありました。しかしビジネスは生き物なので。むしろ、「ある部分においてはデータが取りづらい」などの正しい姿をお伝えできたのではないかと思います。

―― お二人で書くことのメリットは何でしょうか。

青柳:テーマは私の研究ですが、上岡先生はお一人で全て書けるのですよ。ただ、シナジー効果は確実にありますから、一人で書くよりも深い論文になったと思います。

上岡:私は、青柳先生の胸をお借りした感じです。何しろ大先輩ですから、見方も経験も広くて深く、新しい気づきをいただくことが大変多かったです。

青柳:実は、私は今度古希になるのですよ。この論文大会には年齢制限がなくてよかったです(笑)。

上岡:大先輩でしょう(笑)。そこで、青柳先生のご経験をまとめて、皆さんと共有できたらいいと思ったのです。

――長年の経験を棚卸ししたことによって、新しい気づきはありましたか?

上岡:あります。軸となっているものは変わりませんが、最初に想定していたことと違っていることはままありますし、構想や計画時にもう一歩踏み込むべきだった、などが見えてきます。そういうことを、書いているうちに見つけることがありますね。

青柳:特に私のテーマは「方程式」ですし、最初は理論が中心です。それを企業さんに使っていただき、フィードバックを論文にまとめたことによって、「この部分は誤解が多い」「この部分は質問が多かった」などが明確化しましたから、我々としても非常に勉強になりました。

「自分は何をやってきたのか」ということを、形にしていく

―― 今回の論文では、化粧品製造会社の事例を書かれていらっしゃいますが、この「キャッシュフロー方程式」は他の業界にも応用ができるものなのでしょうか。

上岡:ただ、コンピューターの仕組みは急激に変わってきていますから、IT投資の評価基準も新しくしていかなければいけません。部署にホストコンピューターが1台しかなかった時代と、パソコンは一人1台の支給が当たり前の現在とでは、評価が変わってくるのは当然です。そういう意味で、私どもは長いスパンで継続的に取り組み、実証を重ねていこうと考えています。

青柳:キャッシュフローの計算方法ですから、さまざまな業界で応用が可能です。基本的にはモノを作ってらっしゃる会社さんのための方程式ですが、実際はサービス業や建設業の企業様にもお使いいただいています。どの企業様も会計はいますからね。この方程式では、決算の数字がITによって可視化でき、さらにコントロールできるようになっています。

―― 今後は、どのような活動を予定されていますか?

上岡:本年度は、営業改革をテーマに論文を書きたいと思っています。ずっとICT投資を行っていて、もちろんこれはまだ自分たちの仕事として継続していきます。ただ、お客様…特に中小企業のクライアント様は、販路の開拓やITが売り上げにどうつながるのかというところに非常に興味をお持ちです。実は青柳先生は、コンサルタントとして独立なさる前は営業に携わっていらっしゃって-

青柳:会社員時代は営業部で、営業向けの研修などの教育も行っていました。営業と言っても売るだけではなくて、お客様の課題を見極めて、その課題を改善のところで自社の製品やサービスを提案すべき…という内容の研修です。

上岡:そういう研修内容なども組み入れた上で、営業力強化のための実践的な営業改革をテーマに事例ベースで、設計書との関係性などを書いていきたいと考えています。青柳先生のご経験をひとつひとつまとめて、形にして、残していきたいのです。

―― 論文を書く意義とはどこにあると思いますか?

上岡:自分は何をやってきたのかということを、形にしていくところだと思います。せっかく発表の機会をいただけているのだから、形を作ること。それらのひとつひとつの積み重ねが、人生の中で自分のマイルストーンになっていくのだと思います。

青柳:私の年齢のことをみんな知っていて、「あの人はもうそろそろ引退かなあ」なんて思っていた人もいるかもしれません。そんな時にこんな賞をいただけたのは大変意義深いと思います。若い皆さんが「俺も負けちゃいられない」と奮起したり、逆に同年代の人の励みになったりして、会社が元気になったら嬉しいですね。

上岡:自分が若い時って、たとえば70歳になったらどうしているんだろう、と全く予想がつかないですものね。人間の完成度もコンサルタントの完成度も高く、現役で活躍される・・。そういう意味でも、賞をいただいて、それが広まったら素敵ですね。

―― では、最後にこれから論文を書く人に向けてメッセージをお願いします。

上岡:お仕事の中ですごく価値の高いものを皆さんが持ってらっしゃるはず。論文を書くことが上手な方は、それを掴むのがお得意なのだと思います。逆に言えば、お仕事の中に貴重な気づきは必ずあります。それを見つけて、広く皆さんにお伝えするスタンスで書いていくといいのだと思います。ITの世界では常に新規性を求められているのですけど、私たちは愚直なまでに継続的です。でも、大きな改革やまっさらな新しさだけではなくて、時代とともに移り変わったものやインクリメンタルな改善などをお伝えしていけたらいいと思って書いたものが、こんなに素晴らしい賞に結びつきましたから。

青柳:社会人になると終業式がありませんから、区切りは自分で作ろうと思わなければ作れません。自分の知見をもう一段ブラッシュアップするために、自分のために論文を書くのもいいと思います。たとえ厳しい評価をいただいたとしても、身を引き締める効果もありますからね。それが実際に高評価をいただけたなら、こんなに嬉しいことはありません。

―― ありがとうございました。今後のお二人のご活躍を期待しています。

<プロフィール>
上岡恵子 氏
NEC日本電気株式会社を経て、日本ユニシス株式会社勤務。ERP導入・生産管理業務・SCM構築コンサルタント。中小企業診断士、全能連マスター・マネジメント・コンサルタント、米国PMI認定プロジェクトマネジメントプロフェッショナル(PMP)。共著に「キャッシュフロー生産管理ーものづくりからキャッシュの創造へ」がある。
青柳六郎太 氏
1970年NEC日本電気株式会社入社。情報処理サービス、経営ソリューションに携わる。2004年専修大学大学院客員教授を経て、2005年ファイルースコンサルティング設立。SCM/原価/会計アドバイザー、税理士、中小企業診断士、システム監査技術者、公認内部監査人、IFRSCertificate、WEB上級解析士。

取材日:2017年5月31日